カテゴリ:意識朦朧書評( 259 )

『県庁おもてなし課』 有川浩/角川

今回の本屋大賞ノミネート作品が発表されたとき、なんで『県庁おもてなし課』が入ってないんだろう?と疑問に思った。「ダ・ヴィンチ」の年間ベスト第一位だったし、有川浩は本屋大賞の常連で、『県庁』は大賞の有力候補のひとつだろうと思っていたので。
だから、有川氏が本屋大賞を辞退していたことが発表されて、ようやく納得できた。

この作品自体は、面白いか面白くないかで言えば、明らかに面白い。しかし、(ファンではないが)有川作品を何作も読んできた者としては「もういい加減ラブコメ的要素はお腹いっぱい」という気分。非効率的な地方の役所が民間からの刺激を受けて成長していくというストーリーは、目新しくはないが、まあ面白い。できれば具体的な仕事のエピソードをもっとたくさん読みたかったのだが、ベタなラブストーリーが複数同時展開していて、なんともこそばゆい。俺ももう若くはないから、こういうラブコメ要素が無駄なものに思えて邪魔くさい。もちろん、著者のファン層は若い女性中心だから、これでいいんだろうけど。もっと迫力ある作品を書く力がある作家だと思うんだけど、ラブコメやってる限りはあまり期待できないな。
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by akuto9 | 2012-02-21 19:25 | 意識朦朧書評

『共喰い』 田中慎弥/文藝春秋3月号

芥川賞W受賞の後は文藝春秋がお買い得!というわけで久々に買う。石原慎太郎のラスト選評もあるし(黒井千次もだけど・・)。でも本当は尾野真千子の記事がいちばん読みたかったりして。

で、『共喰い』。読み終えて最初の感想は、「古いなー」。次の感想は、「懐かしいなー」。多くの人が言及しているように、中上健次をもろに思わせる雰囲気。「性と暴力」というテーマをストレートに表現した作品を久々に読んで妙に懐かしさを感じてしまった。昔ながらの「純文学」を濃厚に感じさせ、文学にとって普遍的なテーマのひとつであろう「性と暴力」を露骨に描いているあたり、「芥川賞」にはふさわしいのでは。時代遅れ、というよりは、変わらないものを書いている、といった感じ。ネット社会に背を向けて暮らしているらしい田中氏だからこそ、この、懐かしさを漂わせながらも決して懐古趣味ではない作品を、現在リアルに発表できたのかもしれない、と思った。
ここからは作品から少し離れた感想。田中氏はあの印象的な記者会見のおかげで、格段に注目度がアップした。あの会見がなかったら、地味すぎて絶対に売れなかったと思う(いま、単行本はベストセラー!)。しかし、あの会見とその後の報道からは、田中氏が性的に放埓な人物であるとはとても思えない。それなのに、作品中のこの過剰な性描写。そのギャップ、というのがまた文学の想像力(妄想力?)の凄みを感じさせて非常に興味深くはあるのだが、単純に「キモい」と思う読者も多いんじゃないかなと思う。それでも、スマートな円城塔氏より、田舎臭い田中氏の方が圧倒的に売れているという状況は、ちょっと痛快でもある。

でも、やっぱ、尾野真千子の「カーネーション」に比べたら、その面白さは足元にも及ばないなー。比べてもしょうがないけど。
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by akuto9 | 2012-02-13 16:05 | 意識朦朧書評

『かわいそうだね?』 綿矢りさ/文藝春秋

前作『勝手にふるえてろ』の煮え切らなさとは打って変わって、読みごたえある快作中編が2つ収録。まずタイトル作「かわいそうだね?」。彼氏が元カノと同棲を始め、そのことに悩み苦しむ女子。恋愛感情はなく、就職が決まるまで住むところがなくかわいそうだから、という理由なのだが…。悩める女子小説だなと普通に読んでいると、後半予期せず怒涛の展開が!そして、ラストシーンのかっこよさ!ここ数年読んだ小説の中で一番かっこいいラストだった。しびれた。そして「かわいそうだね?」というタイトルが皮肉に響いてくるあたりも綿矢節。

次の「亜美ちゃんは美人」。誰からも注目される美人の親友を持った女子の苦悩を書いた、これも悩める女子小説か、と読み進めると、みんなにちやほやされ順風満帆かと思われた亜美ちゃんが意外な方向に進み、これまた思わぬ展開。最後に主人公が、自分と亜美ちゃんの関係、そしてそれぞれの本当の気持ちに気付く。誇張されているけど妙にリアル。いたたまれなくなるけど、感動的なラスト(少し泣いた…)。これは傑作と言っていいでしょう!別格エンタメ『ジェノサイド』を除けば、個人的にこれが今年一番の傑作だと思う(あまり言ってる人はいないが…)。

先日テレビのインタビューで著者が、長い間スランプだったというようなことを話していたが、綿矢りさらしさが凄みを増して復活したこの2作を読む限り、スランプは脱したのだろう。これからの作品に注目。
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by akuto9 | 2011-12-26 00:05 | 意識朦朧書評

『ジェノサイド』高野和明/角川書店

春に出てからずっと売れ続けているこの小説。売れすぎていると少し敬遠したくなる偏屈な書店員の常としてこれまで読まずにいたけど、「いや、これは本当に面白い」という同僚の薦めで読んでみた。感想。めちゃくちゃ面白かった!間違いなく今年のエンターテインメント最大の目玉作品。あまりにスケールが大きすぎて、ラストの収束の仕方に「それはどうなのよ」と多少ツッコミを入れたくなる部分もあるが、全体的にはそんなこと全く問題にならないくらい、エンタメの王道を行く娯楽作品で、存分に楽しませてもらったので大満足。つまらない映画を見に行くお金があったら、ぜひ『ジェノサイド』を買って読もう!
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by akuto9 | 2011-11-22 11:27 | 意識朦朧書評

『偉大なる、しゅららぼん』 万城目学/集英社

万城目さんの作品を読むのは、『鴨川ホルモー』、『鹿男あをによし』に続いて3作目。奇想天外なホラ話スケールは格段にアップしているが、単純な面白さという点ではなかなかホルモーを越えられない。まあ、ホルモーのレナウン踊りのシーンはずっと越えられないかもしれないけど。

琵琶湖の竹生島には行ったことがあるので、だいぶ親しみを持って読めました。でも、うーん、決してつまらなくはなく、後半も驚かされたりしましたが、人に薦めるほどではない、そんな感想です。
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by akuto9 | 2011-09-16 16:04 | 意識朦朧書評

『十五少年漂流記』ジュール・ベルヌ/波多野完治訳(新潮文庫)

少年時代に読みそびれたままだったので手に取ってみる。原題は「2年の休暇」という感じで、最初から遭難生活が2年間で終わることが仄めかされている。なので『十五少年漂流記』は最初の訳者(英語からの重訳なのだが)による意訳邦題なんだけど、こっちの方が冒険っぽい感じでワクワクしていいなあ。この辺りの翻訳事情には色々あって、波多野氏による解説が大変興味深く面白い。

読む前の勝手なイメージでは、ヨーロッパを出発した船が難破して南国の無人島に漂着する、というものだったが、実際はニュージーランドのオークランドの港から流されたのだった。漂着先も、南は南でも南米大陸の南端付近で、ペンギンがたくさん出てきたりして驚いた。やっぱりちゃんと読んでみないとわからないものだ。

十五少年の内訳は、主人公格のブリアンとジャックの兄弟がフランス人、最年長の人格者ゴードンがアメリカ人で、それ以外がイギリス人だ。この物語は日本では大人気だが、英米ではあまり売れなかったとのことで、その理由は、大活躍するブリアンがフランス人だからということらしい。日本人にとってはイギリス人もフランス人も「外人さん」として同じようなものだがらこだわりがないが、欧米人にとっては国同士の微妙な感情とかがあるのだろう。

物語はエンターテインメントとして大人が読んでも抜群の面白さ。仲間割れやら大人の悪党やらにハラハラさせられるし、後半まで伏せられている、ジャックの抱えた秘密が物語に緊張感を持続させていていい。なんか素直に、この少年たちのように勇気と希望を持った行動力を持った人になりたいなあ、なんて柄にもないことを思ったりしたのだった。いつも思うことだが、少年時代に読んでおけばよかった。
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by akuto9 | 2011-09-05 10:10 | 意識朦朧書評

『オーダーメイド殺人クラブ』 辻村深月/集英社

タイトルがよくない。自分の望み通りの殺人を依頼するという点では確かにオーダーメイドなのだが、「殺人クラブ」ではなかったし、このタイトルでは多くの読者が手に取らずに素通りしてしまう恐れがある。

なぜタイトルにケチをつけるのかといえば、小説の中身が非常に素晴らしかったから。こんなにいい作品なのに、タイトルでめちゃくちゃ損してるよ!と、もったいない気持ち。中身はいいのにジャケットで損してるアルバムみたいに。

と、いつまでも文句を言っても仕方ないので良いところを。中学2年生女子の、学校での人間関係が世界のすべてであるような、自意識過剰で息苦しい日常をとても丁寧に描いていて非常に読み応えがある。読んでいて、「俺は中学生の時に女子じゃなくて本当によかった」と妙な感想を抱いてしまった。もちろん中2男子だってろくなもんではなく、自分は絶対に中学時代には戻りたくないと思っているくらいだが、この小説は著者も主人公も女子なので、男子のダメダメな部分がかなり薄めて書かれているのでそんなに男子の部分は気にならなかった。むしろ男子は美化して書かれすぎな気もするが、まあそこはいいや。クラスの中には暗黙の序列があって、いけてない男子を「昆虫系」とネーミングしている。明らかに昆虫系であったろう私は、そんな中学生のクラスの雰囲気を見事に描き出し、思い出させてくれた(思い出したくはなかったが)著者の力量をすごいなーと感心した。著者インタビューでも、これまで封印してきた「中学生」をかなり気合を入れて書ききった、というようなことを述べていたが、その意気込みが伝わってくる力作だ。

ヤングアダルト小説の新しい定番となるのは確実だろう。そして大人が真剣に読めるヤングアダルトものとしても稀有な一冊。特にラストシーンの鮮やかさが素晴らしい。自分は「トイストーリー3」のエンディングなどを思い出してしまった。辻村作品は何作か読んだことがあり、好きなものとつまらなかったものにはっきり分かれていたが、これは自分の中ではダントツに最高傑作です。現時点では今年の上半期第一位に挙げておきます(そんなにたくさん読んでないけど....)。
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by akuto9 | 2011-06-27 12:35 | 意識朦朧書評

『世界屠畜紀行』 内澤旬子/角川文庫

まず、これを文庫に入れた角川書店は偉い!親本が解放出版社なので文庫になるにしてもだいぶ先かなーと思ってたので、意外に早い文庫化は嬉しい。

スーパーで、パックされた沢山の肉を見るたび、「この店だけでこんなに沢山の肉があるんだから、日本全国で毎日どれくらい多くの牛や豚が殺されているのだろう」といつも思っていた。どこで、どんな過程を経て動物が食肉になっていくのか、その詳細はあまり知られていない。これだけ毎日のようにテレビで「工場見学」的な番組が流されているのに、動物が食肉になる過程が放送されることはない。これだけ身近な食材なのに、みんな毎日食べてるのに、不自然なくらい屠畜の部分は表に出てこない。そんな屠畜の現場を、しかも日本だけでなく世界のあちこちに行って、体当たり取材したのがこの本だ。

奥が深い様々な屠畜の過程を詳細なイラストつきで解説している。その部分はもちろん面白いし、屠畜業への差別という硬派な問題も扱っていて考えさせられるが、いちばん面白いのは著者・内澤さんのキャラクターである。異文化に、そして危険な職場に、どんどん乗り込んで好奇心いっぱいに取材する。その肉好き魂は読んでいて痛快だ。この本は彼女だからこそ書けたものだ。

家畜を可愛がることと殺して食べることは矛盾しない。自分が肉を食べているということに対して初めて自覚的になれた気がする。
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by akuto9 | 2011-06-25 14:32 | 意識朦朧書評

『キミは知らない』 大崎梢/幻冬舎

良くも悪くも中高生女子向けといった感じ。どうせならもっと露骨にヤングアダルトあるいはラノベっぽくした方がよかったのでは?謎を探りにある場所へ出向く最初の部分だけは面白かったけど、出向いた先でまさかあんな展開になるとはね…。四十前の男にはちょっとついていけませんでした。
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by akuto9 | 2011-06-08 18:39 | 意識朦朧書評

『災害ユートピア』 レベッカ・ソルニット/亜紀書房

災害時には、その被災地の住人たちの間で自然発生的に自ら進んで利他的に協力しあうコミュニティーが出来上がる、ということをアメリカの過去の災害事例をもとに検証した本。今回の大震災でも、たくさんの助け合いの例が報告されているが、それは決して「日本人だから」起こったことではなく、非常時の人間社会にある程度普遍的に見られる現象のようだ。何も指示や強制などなしに、自然に協力しあう共同体が出来上がるのはある意味理想的な状態であり、それを「災害ユートピア」という言葉で表現しているのだが、アナーキズムの思想を引き合いにだして検証している部分が本書の中でもっとも興味深かった。

災害が起きると略奪やら暴動やらが起きて治安が悪化する、というイメージがあるが、実際はそんなことはあまりなかった。むしろ、そういう思い込みで恐怖感に追い立てられた政治家やら軍やら警察やらが、誤った方向に権力を使って悲劇を起こした例の方が問題にされている。それを「エリートパニック」という言葉で表している。実際には略奪などしていないのに、怪しい行動をしていると勝手に判断した軍隊が無実の住人を射殺したり、白人高年齢層の男たちが作る「自警団」が無実の黒人を射殺したり。アメリカにおける黒人差別や銃社会の問題は相当に根が深いものだと驚かされるが、日本でも関東大震災時のデマによる朝鮮人虐殺や大杉栄殺害などがあったのだからアメリカだけの問題ではない。

今回の震災でも、被災地の現状と掛け離れた、政府や国会議員たちの迷走ぶりを見ていると「エリートパニック」的なものの存在を感じずにはいられない。住人による自発的な協力コミュニティーが災害発生後比較的短期間で終わってしまうのは、公権力による介入があるからだと考察されている。公権力介入以前のいわば無政府状態での災害ユートピアの発生は、人間の性善説的な可能性を期待させてくれるが、その性質上どうしても短期間に限られてしまうので、それが継続した時にどうなっていくかという興味深い問題を検証できないことが残念である。
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by akuto9 | 2011-06-03 22:41 | 意識朦朧書評