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肉面

 5歳の息子がマンガにも少し興味を持つようになってきた。本棚に『ドラえもん』や『クレヨンしんちゃん』があるのだが、彼がいつも持ってくるのは何故か、『楳図かずお恐怖文庫「こわい本」』(朝日ソノラマ)シリーズなのである。このシリーズ、大人が読んでもかなりエグい内容で怖い。中でも息子がお気に入りなのは、第七巻『神罰』に収録の『肉面』という短編だ(初出・1966年『少年マガジン』)。
 その昔、お面集めに狂った殿様がいて、自分の言うことをきかない凄腕の面職人を殺してしまう。それを見た職人の幼い弟子は、大人になるまで常に顔に笑みをたやさずに暮らし、ある日、その表情のまま自らの顔を切り取って、まるで生きているかのような面を作り、殿様に献上する。これが「肉面」である。彼もまたその場で殺されてしまうのだが、殿様はこの面がたいそう気に入り、いつも寝床に飾るようになる。やがて殿様は病に臥せり、ある日、怒りの表情を浮かべたこの面に食いつかれて死んでしまうのである。
 息子がこの物語を理解して気に入っているのかどうかは疑問である。それよりも、不気味な笑みを浮かべる「肉面」の絵そのものに魅かれているようなのだ。やがて息子は、隠しておいた「肉面」の絵を私に突然見せて怖がらせる遊びを始め、今ではお互いにこの恐怖文庫のシリーズから怖い絵を探し出して「いっせーの、せっ!」で見せ合い、より怖い絵の方が勝ち、という変な遊びにまで進化している。さらに、夜寝る前に語る私の創作童話の中にも「肉面」は大活躍し、「東京タワー」ならぬ「肉面タワー」の話をしてやったら大喜びである。40年も前に描かれた「肉面」が、21世紀少年の心を惹き付ける。楳図かずお、恐るべし。
by akuto9 | 2007-03-29 23:54 | 老体育児記


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