仙台の出版社「荒蝦夷」(あらえみし)は、取次を通さず直接書店と取引する形を取っている。東北関連の本を中心に発行していることもあり、荒蝦夷の書籍を店頭で手にする機会は、全国的に見ればかなり少ないと思われる。数年前『このミステリーがすごい!』に高城高の『X橋付近』がランクインした時、初めて全国的に注目されたが、今回の『仙台ぐらし』の注目度はその時の比ではない。
震災後、被災した事務所から避難しながらも精力的に出版活動を続けた荒蝦夷に対して先日、第八回出版梓会新聞社学芸文化賞が贈られた。一方、仙台在住の作家伊坂幸太郎氏は震災後、震災そのものに関わる発言や作品発表をあまり行わないできた。そんな中、伊坂氏の震災後初の単行本が荒蝦夷から発売された、しかもタイトルがずばり『仙台ぐらし』というのだから、これは見逃せない。 もともと震災とは関係なく荒蝦夷発行の『仙台学』に連載されていたエッセイがメインの内容。本当は昨年春発売予定で計画が進んでいたが、震災のため延期になり、延期になったことで震災に関わるエッセイと被災地を舞台にした短編「ブックモビール」が追加収録されることになった。 このエッセイは、伊坂氏の人柄がよく表れていて大変面白いものだが、やはり注目は短編の「ブックモビール」。今のところ、伊坂氏が被災地を舞台にした作品を書いたのはこの作品のみである。とはいえ、震災そのものをテーマにした作品ではなく、被災地を舞台にいつもの伊坂節が冴えた楽しい作品となっている。この作品の直前のエッセイ「震災のこと」の最後は「僕は、楽しい作品が書きたい。」という言葉で終わっている。ここに、伊坂氏の作家としての強い決意を感じる。オンライン書店ではbk1のみの販売となっている。ぜひ読んでいただきたい一冊だ。
by akuto9
| 2012-04-12 16:51
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