『驚きの介護民俗学』六車由実/医学書院

とてもいい本。
介護施設は聞き書きの宝庫。お年寄りの語りに興味を持ち、根気強く聞き続け、考え、その語りの基となる各人の魅力的な過去を引き出すことに成功している。それは六車さんの、人への強い好奇心と、過去への想像力のなせる技。すばらしい。多忙な介護現場に身をおいた上での実践なので説得力がある。「回想法」の手法に限界を感じ、「介護民俗学」を提唱する。

私も、年々増えているお年寄りのお客さんと応対していて、繰り返しや意味不明の発言に「困ったなあ」と思わされる局面に遭遇することがよくあるのだが、根気よく彼らの言うことに耳を傾けていると、突然「!」と発言の真意に突き当たることがあり、その時は「そうだったのか!」と新鮮な感動をおぼえる。この時、「困ったお年寄り客」から「様々な経験を重ね、老いてなお好奇心旺盛な人生の先輩」へと認識が変わる。そんな経験があるだけに、この本を大いに共感して読むことができた。

最も共感したのはこの部分。
「(著者は)話者の語りの流れをさえぎることは極力避けている。こちらの計画的な質問に対する答え以外の部分で、こちらが気づかなかった重要な問題が語られることが非常に多いからである」

本当に、これは現場で日々実践している人からでないと出てこない言葉だ。
[PR]
# by akuto9 | 2016-08-03 07:28

『口笛を吹きながら本を売る~柴田信、最終講義』石橋毅史/晶文社

芳林堂書店を経て岩波ブックセンターに勤める大ベテラン、柴田信さんへのインタビューの記録。通常この手の取材は、その人がいかに考え、想いをこめて棚作りや店作りをしているかが語られるものだが、柴田さんにはそういうのが一切ない。書店員が自己主張することにたいして懐疑的なのだ。

柴田さんは日々「普通」に本を売る。売場の従業員のことを考え「皆が気持ちよく、なるべく嫌な思いをしないで働けるか」を重要視する。その感覚にものすごく共感。
[PR]
# by akuto9 | 2016-08-01 13:31

3年ぶりに

3年ぶりの投稿です。
この間、職場も居住地も変わりましたが、相変わらず書店員やってます。
誰が読んでくれてるかわかりませんが、またゆるりとやっていきます。
[PR]
# by akuto9 | 2016-07-27 20:08

メディアファクトリー

メディアファクトリーの2点、

大泉洋『大泉エッセイ』
若林正恭『社会人大学人見知り学部卒業見込』

もの凄い売れ行き!のはずなのだが…。
重版が遅い&少ないで全然入荷せず、めちゃくちゃ売り逃してるなー。もったいない。
せっかくの大ヒット(のはず)を活かしきれてない。本当にもったいない…。
[PR]
# by akuto9 | 2013-05-24 19:53

好奇心

11歳の息子に、「本屋さんになるためには、何がいちばん大事なの?」と聞かれた。
「うーん、やっぱり好奇心かな。色んなことに興味がないといい本屋にはなれないよ」と答えたら、
「でも、好奇心が身を滅ぼすこともあるんでしょ」と言われた。
どこで知ったんだそんなこと…。
[PR]
# by akuto9 | 2013-05-01 21:39

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』 村上春樹/文藝春秋

『1Q84』を遥かに越える初動。内容が全くわからない初日からガンガンにかっとばして売れて、あっという間に100万部。村上春樹はもはや「人気作家」というレベルでは済まない「神」のような存在ですよ、書店にとって。ありがたやありがたや。こんな地味な小説なのに…。

『ノルウェイの森』を思い起こさせるストーリーに、これまでの村上春樹小説の色んな要素が顔を出す、「集大成」というほどの大作じゃないけど「手軽なベスト盤」的感触。まあ、「相変わらずだなあ」と思いはしたけど、結構好きです(同僚の評判は良くないけど)。ただし2歳年上の恋人キャラはどうにも好きになれず。もう年上の女性を頼りにするのはいい加減やめようぜ!と思いました。

なぜこんなに売れてしまうのか?
この作品を読み終わった後、格別に感動したわけでもないのに過去の村上春樹作品を強烈に読み返したくなりました。『多崎つくる』を読んだことにより、村上春樹ワールドに引き戻され、もっともっと彼の文章を読みたくなる。小説のストーリー云々ではなく、彼の文章そのものが強烈な中毒性を持っているのだ、と今回いまさらながら気づかされたように思います。『1Q84』の時は話題先行で売れているのだと思ってましたが、今回の地味な『多崎つくる』のバカ売れ具合を見ると、春樹中毒者が『1Q84』以降大量増殖したのかもしれないと感じてしまいます。
私自身、「村上春樹って面白いの?」と問われるといつも「うーん…」とお茶を濁すし、「好きなの?」と聞かれても「よくわからない」と答えてる曖昧なスタンスの人間ですが、ついつい読んでしまう。何度も読んでしまう。不思議な魔力を持つ文章に抗えない、そんな感じ。

ともあれ、エンターテインメント系じゃない小説がこんなに売れるのは本当に凄いことです。ありがたやありがたや。
[PR]
# by akuto9 | 2013-04-22 13:40

久しぶりに

ずいぶん長い間サボってしまいました。久しぶりの書き込みです。なんやかやと身辺がゴタゴタして滞ってしまいましたが、村上春樹騒動で目が覚めました。ゆるりと復活しようと思いますのでまたよろしくお願いします。
[PR]
# by akuto9 | 2013-04-22 13:39

『64』 横山秀夫/文藝春秋

横山秀夫氏、なんと7年ぶりの新刊!『陰の季節』のD県警ものですが、既刊を読んでなくても大丈夫。やっぱ横山さんは短編より長編の方が圧倒的に面白いなあ。これは文句なしにおすすめできる面白さなので、ぜひ予備知識なしに読んで楽しんでほしいです。

今年の年末ミステリーランキング1位は、宮部みゆき氏の『ソロモンの偽証』とこの『64』の一騎打ちになることでしょう。今から結果が楽しみだ。
[PR]
# by akuto9 | 2012-11-06 15:52

ぬけがら

4歳の末っ子が唐突に、
「おとうさん、にんげんにもぬけがらってあるの?」
と聞いてきた。
「気力がなくなって「抜け殻みたいになる」っていう言い方をすることはあるけど、セミの抜け殻みたいなのはないよ」と答えておいた。もし人の抜け殻が実在したら、かなり不気味だな…。
[PR]
# by akuto9 | 2012-10-13 16:49

ノーベル文学賞

昨晩のニュースで、村上春樹氏のノーベル文学賞を期待するファンの人達(ハルキスト)がカフェに集まって受賞発表を待つ光景が映されていた。その様子を見ながら、村上春樹さんはこういうの嫌いなんじゃないかなーと心配になった。

村上氏が最有力候補、という説がどこからきたのかは知らないが、莫言氏の中央公論から出ている著書の帯には「アジアで一番ノーベル賞に近い作家」と書いてあり、莫言氏の受賞の方が順当なものだったんじゃないか、とも思った。

私も村上春樹作品は好きでほとんどの小説を読んでいるが、「ノーベル文学賞」に相応しい作家なのか、というとよくわからない。これから毎年、受賞するまでこの騒ぎは続くのだろう。それもまた秋のお祭りみたいでいいのかも。
[PR]
# by akuto9 | 2012-10-12 21:58